2018年の論点本を4冊読んで見えてきた日本の課題と抜け落ちた視点

異なる立場を持った人の意見を、オープンで建築的な姿勢で聞きたい。相手や自分の主張の前提を掘り下げ、理解しながらも異なる主張を共有したい。それが出来るメディアとして、この「四角い世界を丸くする」を動かしていきたいと思っています。

本連載について

この記事は「日本と世界の課題を丸くする」という連載の中に位置づけられます。「社会問題のwikipedia」を目指して、今はまず(特に日本を中心とした)世界の様々な課題を整理しています。

今回は前回取り上げた三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2018年日本はこうなる」、日本経済新聞社「日経大予測 2018 これからの日本の論点」、大前研一「日本の論点2018-2019」に加えて、文藝春秋オピニオンについて取り上げます。

連載「日本と世界の課題を丸くする」
vol.1 書評:小川仁志「哲学の最新キーワードを読む」
vol.2 ポピュリズムとは何か、そして抵抗としてのスローイズム(Slowism)
vol.3 再呪術化とは何か、理性よりも宗教が力を持つ時代で対話の道はあるのか
vol.4 哲学者がAIとシンギュラリティを恐れるのは、その知が【非理性的】だからだ
vol.5 無自覚なフィルターバブル、閉じこもることが可能なインターネット
vol.6 プライバシーと超監視社会:利便性・自由・意思
vol.7 アメリカと同じ分断が生じる日本には、社会問題のwikipediaが必要だ
vol.8 「日本と世界の2018年の論点」を整理した3冊を丸めてわかったこと
vol.9 2018年の論点本を4冊読んで見えてきた日本の課題と抜け落ちた視点

 

この記事の目的

私はいま、この四角い世界を丸くするというオピニオンメディアを社会問題のwikipediaのような形に少しずつ動かしていこうと考えています。社会課題というのはあまり整理されておらず、その主張も雑多で色々なところで行われているため整理して体系的に理解することが非常に難しくなっているのがその理由です。

 

そこで、まずはそもそも社会課題というのは一般的にどんなものがそう呼ばれているのかを整理するために「2018年の論点」について触れている本を読むことにしたのです。

前回読んだ本は1.日経が出しているもの、2.伝説のコンサルタント大前研一さんが出しているもの、そして三菱UFJリサーチが出しているものでした。(詳細は上述記事をどうぞ)

そこでは

・論点本には経済・経営を中心としたものとそうでないものがあること
・四角丸では後者のような形が望ましいこと
・経済の視点は「金融」「産業」「企業経営」「労働環境」のレイヤーがあること
・1つの論点について複数の見方、オピニオンが提示されると嬉しいこと

ということがわかったので、今回は経済以外にも大きく紙幅を割いている文藝春秋オピニオン2018を追加で読むことにしたのです。

文藝春秋オピニオンの構成

本書では、まず100のテーマについて大体見開き1ページか2ページほどで紹介されています。筆者は政治家から新聞社の編集委員、コンサルタントに研究者など様々です。1つのテーマについて1人の意見が載っているだけなので整理的であったり網羅的であったりするわけではありません。

2018年の10大テーマ

そして、これは三菱UFJリサーチの本と同様、1つめのカテゴリとして「2018年の10大テーマ」を挙げています。

・2017年体制としての安倍政権
・北朝鮮の脅威
・天皇退位
・米中の覇権争い
・改憲
・ポストイスラーム国
・デジタル革命
・教育の大変革
・介護
・維新から150年、明治の精神

となっています。国内政治、安全保障、天皇制、世界経済、憲法問題、テロと中東情勢、ビジネス改革、教育の変動、介護問題、平成の終焉といった形でしょうか。国内外問わず、またビジネスだけではなく様々なトピックが取り上げられているのがわかります。

そして16のカテゴリ

ここからは、90のテーマが15のカテゴリに大別されて収録されています。政治、安全保障、皇室、中国・北朝鮮、国際情勢、経済、ビジネス、働き方、家族・生活、食、医療・健康、科学・技術、教育、スポーツ、文化・メディアとなっています。

これまで読んだ3冊の本と比較してみると、その関係性が明瞭になってきます。

日経→経済・金融、産業・企業、政治・国際情勢・世界経済

大前→国際情勢から国内ビジネス、オリンピックなど

三菱→国際社会・海外ビジネス、産業、企業経営、働く場、社会・文化、少子化・高齢化、地域、地球環境・エネルギー

という切り方を導入しています。

日経については非常にわかりやすく、経済周りの部分が完全に中心です。

大前さんは日本と世界の主役交代ということで2つのカテゴリーを用いていますが、テーマという意味で言うならかなり広く取り扱っておりカテゴライズはされていないと言って良いでしょう。

三菱の本はビジネスの部分を国際レベル、産業レベル、企業経営レベル、働く場の4つに分解していることが特徴的ですね。文藝春秋の経済レベル、ビジネスレベル、働き方レベルと概ね同様の分け方でしょうか。

いくつか気づいたこと

このように見てみると、やはり対象読者によってカテゴリを分解しているという印象を受けました。経済やビジネス寄りのものはそれを明確に押し出しています。それに対して、三菱や文藝春秋は出来るだけ広い論点を取りに行っている、つまり社会課題と呼んで良いようなカテゴリーの分け方をしている印象です。

なので、今後カテゴリーを考える上ではこの2つの本をある種の下敷きにするのが望ましいと思われます。2つを組み合わせてカテゴリーの重複を削るとこんなふうになります。

国内政治(皇室、改憲、政権、スキャンダルetc)
安全保障(中国、北朝鮮、ロシア、アメリカetc)
国際社会情勢(テロ、一帯一路、アフリカ、中東etc)
経済(海外-産業-企業経営-働き方/働く場)
生活・文化(食、教育、医療・健康、メディア、スポーツ、地域、家族)
科学・技術
地球環境

多少カテゴリーは雑ですが、大枠こんな風になっているように思います。社会問題のwikipediaを創るといっても最初は僕自身の知識量の問題もあるので、当然絞っていく必要があることは間違いありませんが、参考にするには十分なものになりました。

欠けているように見えるもの

と、同時にここから欠けているように見えるものもいくつか見えてきました。これまで「四角い世界を丸くする」が取り上げてきたトピックの中で無視されているものが少なからずあるからです。

1つはジェンダーとダイバーシティの文脈。これはほとんど記事がありませんでした。ハラスメントの問題もここに組み込むことが出来るかもしれません。

1つは貧困。一部奨学金やシングルマザーの問題がありましたが後者は部分的な記述でした。

そして僕自身がいま関心を持っているワードの1つとして、孤立(Loneliness)

もちろんこれらは相互に繋がっていることも多く、また既存のカテゴリとも繋がるところ大でしょう。しかしカテゴリとしてまとめられずに認知・可視化されない限り常に傍論として脇に追いやられ続けることもまた間違いのないことだと思います。

Diversity and Inclusionという考え方があります。それは多様性を認めあうこと、そして分断することなく共にあろうとすることを意味しています。もしかしたらジェンダー・ダイバーシティ・孤独はこれらの文脈に包含することが出来るかもしれません。

また、重要なことですがどの論点本の記事も基本的に個人のオピニオンが述べられているだけで反対意見や異なる視点が含まれていないことにも留意すべきでしょう。

これからの「四角丸」

やはり、あらゆるメディアというのはそれぞれの編集方針を持ち、独自のスコープを持っているものと思われます。それこそがメディアの味となり、それを読みたいと共感する人が集まってくるはずです。量と質ももちろん重要だろうと思います。

日経は経済に完全に特化して優れた情報を提供しています。大前さんはその洞察力と異常なまでの知識の広さ、そして個人のネームバリューが全面に出ています。三菱UFJリサーチは広く課題を取り上げ、文藝春秋は広いトピックにオピニオンを重視して識者の色が明瞭です。

では、「四角い世界を丸くする」は今後どのような方向に進んでいくのか。どのような視点で社会を捉え、また広くトピックを取り込むにしても重点的・優先的に何を取り扱うのか。誰のために届けていくのか。これらを考える必要があります。

現段階での仮説ですから今後変わる可能性もありますが、暫定的には以下のようなことを考えています。

メディアのゴール
対立する異なる意見に対してオープンで建設的な対話を望む人が集まる場であること

メディアの方針
加害的でないこと、唯一絶対の解を是としないこと

メディアの対象者
自分と異なる意見を持つ人との交流に意味を見出したい人たち

メディアが提供するもの
・社会課題について整理された情報
(構造、統計、論文、書籍、思想、オピニオンほか)
・当事者の声
・課題解決策や具体的な行動、団体などの紹介

メディアが取り扱うテーマ
要検討。ジェンダー、貧困、ダイバーシティ、孤独、働き方、環境問題、大学政策など色々取り上げてきたが今のところまだ最も良いテーマや優先すべきテーマは確定していない状態。現在、どのようなテーマが良いのか模索しながら、まずはジェンダーについて広く発信している状態。

まとめ

4冊の論点本を読んでわかったことは、改めて「このメディアはどの視点で世界を捉えるのか」というのが一番大事だということです。編集者の存在意義とは、膨大で捉えきれない情報をなんらかのシステムによってそれを咀嚼・分解・再構築してまた社会に出すことでしょう。

とするならば、このメディアは僕の最初のモチベーションに基づいて「対立して殴り合いになってしまっている多様な主張を整理して、加害的になることなく互いの立場や前提を共有しあう場」にしたい。SNSでよく見かける論争について整理していくのがまずはわかりやすい道だろうと考えています。

ジェンダー、障害、民族差別など多様な激しい対立に対して、出来ることはないか今しばらく探索的な立場で考えていきたい。

連載「日本と世界の課題を丸くする」
vol.1 書評:小川仁志「哲学の最新キーワードを読む」
vol.2 ポピュリズムとは何か、そして抵抗としてのスローイズム(Slowism)
vol.3 再呪術化とは何か、理性よりも宗教が力を持つ時代で対話の道はあるのか
vol.4 哲学者がAIとシンギュラリティを恐れるのは、その知が【非理性的】だからだ
vol.5 無自覚なフィルターバブル、閉じこもることが可能なインターネット
vol.6 プライバシーと超監視社会:利便性・自由・意思
vol.7 アメリカと同じ分断が生じる日本には、社会問題のwikipediaが必要だ
vol.8 「日本と世界の2018年の論点」を整理した3冊を丸めてわかったこと
vol.9 2018年の論点本を4冊読んで見えてきた日本の課題と抜け落ちた視点

 

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