女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘

男女雇用機会均等法以前には定年の年齢にも差別があり、25歳には職場を追い出される女性も少なくなかった。制定後も総合職と一般職という名目で男女の職務や報酬体系を分離させ続けてきた。性別に基づく労働における差別はいまだ根深いのだ。

この連載について

この記事は「生きづらさとジェンダー論を考える」という連載の中に位置づけられる。ジェンダー論とは性に基づく社会的役割規範からの自由を求める思想であり、女性や男性(あるいはそもそもこのような二分法を破壊することも視野に入るだろう)が、その性ゆえに求められるものを浮き彫りにし、その文化的強制力を相対化したいと考えている。

いま、多くの人達が生き辛さを覚えている。僕はその理由の一つはまぎれもなくこのような「べき論」によるものだと考えている。べき論は文化の中に潜り込んでいて僕達を知らない間に縛り付け、抑圧する。そのためにはまずそのような抑圧があること自体を可視化する必要があるだろう。この連載ではあらゆる「ベキ論」をまずは明るみに出していきたい。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

男女雇用機会均等法以前の男女格差

1985年に成立した同法以前は、今の私達にとってはほとんど信じがたいような雇用慣行が行われていました。当時既に30代以上(企業や業界の基本的な文化を理解した)の世代は今でいう60歳くらい。つまり、いまの60歳くらいの人たちはこの男女雇用機会均等法以前の世界観を社会に出た最初のタイミングで体感したことを前提に見ていきましょう。

まず、女性にのみ若年退職制度というものがありました。多くの企業は、女性が結婚するか25歳になったタイミングで出ていくように促していました。ごく一部会社に残る女性がいても昇進が困難であったり、昇進しても部下の男性より給与が低いということすらありました。

更に今となってはどんな理屈もつけられませんが、定年差別もありました。男性は55歳、女性は50歳で定年といった具合です。しかし、このような状況に変化を生んだのが男女雇用機会均等法でした。

形骸化する男女雇用機会均等法

満を持して登場した男女雇用機会均等法は、しかし速やかに骨抜きにされてしまいました。それは、現代にも続いているある採用制度の影響です。「コース別人材採用制度」をご存じの方も多いはず。つまり、総合職と一般職とで採用を切り分ける仕組みです。

そして、おわかりかと思いますが幹部候補である総合職のほとんどは男性が、そして女性は一般職で採用されることになりました。男女による区分ではなく、あくまで採用コースによって職務や報酬制度を変えると言えるようになったわけです。表向きは違法性はありません。

しかし、これが同法の主旨に照らし合わせたときに適切な制度だったかどうかは考える必要も無いと言えるでしょう。傍論ですが、実はいま一般職採用を望む男性も増えてきています。それは「総合職だと転勤が当然とされ、自分の生活を計画だてられない」ことが理由だとも言われています。

男性はバリバリ働いて、女性はそれについていくもの。そんな役割分担を暗に内包していたコース別人材採用制度も崩壊しつつあるのが現状でしょう。

ガラスの天井と性別職務分離

「手が届きそうなのに、目に見えない障壁があって昇進が頭打ちになる」ことをガラスの天井と呼びます。現在まで女性には常にこのガラスの天井があると言います。昇進というのは、具体的なプロジェクトや業務において「このでかい仕事を誰に任せるか」と密接に関わります。成果が出せる仕事を与えられた方が、成功さえすれば昇進しやすいのは想像に難くないですよね。

たとえ制度上男女平等を謳っていたとしても、このようなプロジェクトを任される女性が極端に少なければ当然ガラスの天井がそこに存在してしまうわけです。これと性別職務分離の問題は繋がっています。

性別職務分離とは、男女の労働者が携わっている職業や職務が偏っていることを指します。例えばデパートのような女性が活躍しているように見える職場でも、外商をしたり外交販売を行うのは男性が圧倒的に多いとされています(当然わかりやすい成果が出るのもこちらであることが多いでしょう)。

銀行でも融資など対外的なものは男性が担当し、窓口関連の業務を女性が担当することがほとんどだとするならばこれはまさに性別職務分離だと言えるわけです。このような状況で「男性のほうが成果を出している」と言われても「構造上そうなるに決まっている」としか言いようがありません。

「能力主義」の嘘

更に「男女差ではなく能力差によって取扱を変えているのだ」という言説も広く知られています。男性だから頼んでいるのではなくて、優秀な人がたまたま男性だったというわけです。この論理にはいくつか注意するべきことがあります。

先程のガラスの天井や性別職務分離を見れば分かる通り、同じ職場であっても振られる仕事が異なる場合があります。成功すれば価値ある重要な仕事を男性が負うことが多く、失敗する可能性が高かったり成功しても大きな成果にならないようなプロジェクトを女性に任されてばかりだとしたらどうでしょう。

また、old man’s networkという言葉もあります。仕事上重要な情報を共有するのは喫煙所や飲み会などが多く、そこに構造的に参加しづらい女性にとってそもそも不利な状況であることがあるのです(例えばキャバクラで仕事の大事な話やプロジェクトを任せるかどうかの判断をするような会社で女性が昇進するのは難しいですよね)。

能力主義は一つの考え方ではありますが、その能力をどのように測定するのかというところにおいて、実は男女差が隠れている場合があることについて意識的である必要があります。

まとめ

このように、性別による労働における差別は男女雇用機会均等法の前後でも大きく変わることはなく、もちろん制度としては重要ではあったものの、現実の男女格差を是正することには不足が否めません。

この流れの中で、いまも男女の労働格差や賃金格差は存在しています。今後、このような課題がどのように解決されていくのかを注視していく必要があるでしょう。

最大のネックというかポイントは出産・子育てが社会においてどのように取り扱われるかであると考えます。社会が保育するという全体設計になれば、女性が出産後すぐに働き始めることも可能でしょう。3歳児神話-3歳までは母親がつきっきりでいたほうが良いという幻想-から解き放たれる必要もあるでしょう。詳細は以下の記事を御覧ください。

次回

これからしばらく、この連載を通して社会制度とイデオロギー、そして現代の人が感じる違和感について描いていきたいと思っています。今回に引き続き、しばらくジェンダーと労働について触れていきます。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

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