パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ

「パートタイムのおばさん」は、今で言うまさしく非正規雇用。しかし、その問題が子育て後の女性に限定されていたときは社会問題にはなりませんでした。2004年の労働法改正が若い男女にまで非正規雇用を広げ、初めて社会問題化したのです。

この連載について

この記事は「生きづらさとジェンダー論を考える」という連載の中に位置づけられる。ジェンダー論とは性に基づく社会的役割規範からの自由を求める思想であり、女性や男性(あるいはそもそもこのような二分法を破壊することも視野に入るだろう)が、その性ゆえに求められるものを浮き彫りにし、その文化的強制力を相対化したいと考えている。

いま、多くの人達が生き辛さを覚えている。僕はその理由の一つはまぎれもなくこのような「べき論」によるものだと考えている。べき論は文化の中に潜り込んでいて僕達を知らない間に縛り付け、抑圧する。そのためにはまずそのような抑圧があること自体を可視化する必要があるだろう。この連載ではあらゆる「ベキ論」をまずは明るみに出していきたい。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

「専業主婦とサラリーマン」の崩壊

前回の記事でも触れたように、専業主婦とサラリーマンという組合せが成立していたのは非常に短い期間に限られます。1920年代に都市化が進むと共に、農業従事者が減ってサラリーマン世帯が増えたことが関連しています。

http://shikaku-maru.com/book/marriage-change-concept-in-history/

元々多くの仕事では、職住近接な環境がほとんどでした。作業をする場所は家の近くだったわけです。あるいは家そのものが職場でした。そのような場合、子育てしながら働くというのは当然のことでしたし、それは女性もそうです。子どもも勉強するよりは職場で手伝いをすることも普通でした。それが変わっていったのは1920年代です。

都市化が進み、そのような職住近接の仕事は減りました。男は外に「出ていって」仕事をし、その代わり家の中のことは妻が担当する。これは決して当たり前のことではなく、このような社会に依存した仕組みなわけです。そして1970年頃には既に共働き世帯が専業主婦世帯の数を越えています。

わずか50年、しかも「越えた」のが1970年ですからそのずっと前から共働き世帯というのはいたわけです。専業主婦とサラリーマンという世帯は、歴史の一部における一部の家庭にしか存在していなかったわけです。職住近接ではないわけですから、どうしても出産や子育てのタイミングでは女性は職場を離脱し、手がかからなくなったら職場に戻ったわけですね。これをM字型雇用と言います。

パートタイムという「便利」な労働力

さて、このような状況で女性が雇用されるのはパートタイムがほとんどでした。その頃はパートタイムと呼ばれていましたが、最早現代では「非正規雇用」と呼ばれる方が遥かにわかりやすいでしょう。最近、若者や男性もその対象になってきたから問題としてあぶり出されてきましたが、元々女性たちはこの非正規雇用という極めて不安定な雇用形態に甘んじてきたのです。

時間契約という形なのでボーナスもなければ有給ももちろんありません。都合の良いときだけ雇用して、そうでなくなればその雇用を切ってしまえば良い。「パートタイマーのおばさんたち」は、常識的に考えて非常に不安定な雇用のされ方をしていたわけです。しかし、社会全体がそれを問題として取り上げることはほとんどありませんでした。

高度経済成長のタイミングも、彼女たちのような便利な調整弁としてのパートタイマーの役割を見過ごすわけにはいかないでしょう。調整弁というのは「企業の状況に合わせて人件費を増やしたり下げたりするための最初のターゲット」だということです。正規雇用であれば簡単に企業の狙い通りクビにすることは出来ませんが、パートタイマーはそうではありません。非正規雇用と同様、簡単に切ることが出来るのです。

そのような働かせ方を許してきた社会が、いまやっと若者や男性まで同じような働き方が増えてきた時にそれを問題視するということ自体に疑念はあれど、とにかく問題視されるようになってきました。

2004年 労働者派遣法

現代の派遣労働者、非正規雇用の問題はこの辺りの法改正と密接に関わっています。そしてこのタイミングでパートタイムなどの非正規雇用の問題が「男性化」しています。女性だけではなく男性もまた非正規雇用「問題」の対象になってきたわけです。2013年時点で、15-24歳の若い男性の1/4までもが非正規雇用になっています。女性に至っては1/3です。

法改正によって、元々女性の仕事が一部に限られていた上に、それらの職分にも派遣労働者を受け入れられるようになりました。一般事務などの仕事は次々に派遣社員にとって変わられるようになります。企業としては人件費が安くなり、ボーナスなども必要なくなり、クビにしたいときに出来るようになったのですから良いことずくめです。

もちろん女性の立場からすると、これまでと同じ仕事をしていても非正規雇用になって不安定な生活が始まります。企業がこれまで担保してきた様々な社会福祉からも外れることとなります。企業にとっては都合がよくとも、多くの労働者にとっては苦しい法改正でした。これはもちろん男性もそうです。

更に最近は本来であれば退職する年齢の人たちも、年金受給のタイミングが遅れることから再雇用という形で勤務を継続するようになってきました。若い男女も、60歳以上の男女も、みな不安定な雇用の中で生きていかねばならない状態です。

まとめ

このように、非正規雇用の問題は当初パートタイムという形で子育てを終えた後の女性だけの問題でした。あるいは問題とは認識されてすらいませんでした(実際にはパートタイムだと生きていけないため離婚が出来なくなったり、種々の問題は間違いなくあったわけですが社会が認識していなかった)。

しかし、2004年の派遣労働者の法改正に伴い若い女性もまた仕事を派遣に置き換えられ、更には若い男性もまた同様に取り扱われました。若者の1/4が非正規雇用というのは、もはや完全に社会が変わったとしか言いようがありません。全員正規雇用でボーナスがあって有給があって長く勤務していれば昇進していく、そういう前提に基づいた社会はとうの昔に崩壊してしまっているのです。

「男性が稼ぐべき」といった価値観もこのような社会の中では完全に虚しく響くだけです。それどころか男性女性問わず、誰もが不安定な雇用の中で生きることになっているのです。

次回

これからしばらく、この連載を通して社会制度とイデオロギー、そして現代の人が感じる違和感について描いていきたいと思っています。今回に引き続き、しばらくジェンダーと労働について触れていきます。次回は男女の賃金格差について検討する予定です。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

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