女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由

近代家族の解体と共に、600万-900万を稼いでいた男性世帯主は次々に数を減らしていきます。その中で女性と男性の結婚観は不可避的に変わらざるを得ません。両性とも「ベキ論」に苦しめられる前にその前提をよくよく理解したいものです。

この連載について

この記事は「生きづらさとジェンダー論を考える」という連載の中に位置づけられる。ジェンダー論とは性に基づく社会的役割規範からの自由を求める思想であり、女性や男性(あるいはそもそもこのような二分法を破壊することも視野に入るだろう)が、その性ゆえに求められるものを浮き彫りにし、その文化的強制力を相対化したいと考えている。

いま、多くの人達が生き辛さを覚えている。僕はその理由の一つはまぎれもなくこのような「べき論」によるものだと考えている。べき論は文化の中に潜り込んでいて僕達を知らない間に縛り付け、抑圧する。そのためにはまずそのような抑圧があること自体を可視化する必要があるだろう。この連載ではあらゆる「ベキ論」をまずは明るみに出していきたい。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

M字型就労と新・専業主婦志向

結婚前はしっかり企業で働いて、結婚したら退職して子育てに専念、その後子どもの手が離れたらパートタイムなどの形で働く。このような働き方をM字型就労と言います。いまの20代から30代くらいの女性の多くが描いていたライフスタイルに近いかもしれません。

また、新・専業主婦というのはこの子育て後の仕事を「フラワーアレンジメント」などカタカナ語で示されるようなキラキラした感じのものを求める場合(そんなに大変じゃなくて綺麗な感じ、でそれなりの収入を〜といったイメージ)はこれを新・専業主婦志向とも呼びます。

女性が社会進出を望む声があるのは事実ですが、それはもちろんすべての女性ではありません。結婚したら専業主婦として働きたいと考えている女性はたくさんいます。そしてそれはもちろん「遅れた」考えなどではありません。しかし、それが困難であることもまた確かな時代になりました。

「専業主婦」が出来るのはお金持ちの妻だけ

一言でいうと、男性世帯主が単独で世帯を維持する事のできる給与を稼ぐことが出来るのはわずかです。近代家族を養ってきた600万ー900万円の世帯層というのは急速に解体されています。前記事で紹介した内容ですが、労働と家族が切り離されていく過程の出来事だといえるでしょう(単に不景気だという理解もありえる)。

女性が専業主婦願望を捨てられていない中、男性は共働き世帯を求める傾向があります。それは端的に言ってそうしないと家計が苦しいからです。実際1990年代には既に共働き世帯が専業主婦世帯を数の上で上回っています。現実的に難しいのです。

また、専業主婦を求める人達には離婚というリスクが常に存在しています。いま3組に1組が離婚する日本社会において専業主婦として生きることを望むことは端的に言ってリスクだと指摘することも可能でしょう。

結婚のきっかけは妊娠

更に面白いことに、いま結婚のきっかけも大きく変わっています。子どもが生まれるタイミングがいつか、というデータからそれを考えることができるのです。一昔前は結婚してから10ヶ月前後で出産される子どもが最多でした。まさしく、結婚と生殖がセットだった時代ですね。ハネムーンベイビーというわけです(実際、一般的な性生活を持てば結婚後2年以内に自然妊娠することがほとんどというデータもあります)。

しかしそれが徐々に結婚後数ヶ月にピークがずれてきているのです。いわゆるできちゃった結婚、授かり婚と呼ばれる現象です。これはロマンティックラブ・イデオロギーが不完全な形で維持されていることを意味します。この概念については他の記事に詳細を譲りますが、要するに「恋愛、結婚、生殖」はセットであるべきだという価値観です。

完全なロマンティックラブ・イデオロギーの中では、恋愛と結婚はセットです。しかしそれは今や完全に破られ、いわゆる婚前交渉も含めて当たり前のものとなっています。しかし、生殖と結婚についてはいまだ根強いイデオロギーが働いているということがわかります。

ちなみにフランスなどでは婚外子の割合も高く、そういう文化では生殖と結婚も結びついていないことがわかります。恋愛、結婚、生殖がセットであるとする考え方はあくまで1つの文化、価値観、イデオロギーであって自明のものではないことがここからもわかります。様々な場面にある「べき」論を考えるにあたって、これを指摘しておくことは重要でしょう。

結婚をする社会的圧力がどんどん弱まっていく中で、子どもが出来たということが圧力として機能する時代がどこまで続くかは疑問ですね。1人でも子どもを育てやすい社会を作る方向に行くのも1つの選択肢、そうではなく結婚を改めて重要なものとして社会が捉えていくこともありえます。この議論については他の記事に譲りますが、非常に重要なものでしょう。

男性も「ベキ論」に苦しめられている

それにしても、近代家族の解体と家族型経営の終わりをもって、男性が男性であるという理由だけで世帯を養うほどの収入を得ることが困難になっていることは間違いありません。いわゆる専業主婦願望を叶えることの出来る人はほんの一握りとなっています。

それにも関わらず、いまだに男性が「女性にはおごるもの」「一家を養う収入がないのは格好悪い」という評価をされることは非常に苦しいことでしょう。一般的にジェンダーロールに苦しめられているのは女性が多く、ゆえにフェミニズムはどこまでいっても女性のものだという考え方がありますが、そんなことはありません。

men’s studyが示すように、男性もまた男性という枠組みを無理やり押し付けられる苦しい時代です。求められているものは昔から変わっていないのに、それを実現することはどんどん困難になっているのです。一部の男性が女性の社会進出を否定するのは、それによって男性の報酬が減って「期待はされるのにそれを実現出来ない苦しみ」から来ているものだと以前のツイキャスでも男性本人から話を伺ったことがあります。

女性の要求がそもそも困難であることがもっと社会で共有される必要があるかもしれませんし、男性もまた「男は稼がなくてはならない」という思い込みから解放される必要があると思います。と同時に、いまもまだ男女の収入に明確な格差があることもこの状況を厄介なものにしています。男性の方が稼いでいるのは事実なのだ、というわけです。

時代が移り変わる過渡期にいるため、このような問題はより一層複雑になります。しかし、誰もがベキ論にとらわれて苦しんでいる状態が少しでも弱まれば良いと思いながらこの記事を書いています。

次回

これからしばらく、この連載を通して社会制度とイデオロギー、そして現代の人が感じる違和感について描いていきたいと思っています。今回は結婚に関しての男女の考え方が変わらざるを得ない背景について説明しています。

そして次回からは労働とジェンダーについて話題を移していきましょう。女性の社会進出とはどのような意味なのか、も合わせて考える事になると思います。

連載「生きづらさとジェンダー論を考える」
vol.1フェミニズムの歴史を概観する:第一波フェミニズムとはなんだったのか
vol.2フェミニズムの歴史を概観する:第二波フェミニズムとはなんだったのか
vol.3ジェンダーを巡る:近代家族という発明品と伝統の構築
vol.4ロマンティックラブ・イデオロギーと母性神話:恋愛、結婚、子育てを巡る現代の価値観
vol.5結婚への圧力が消えた社会の未婚化→少子化とジェンダー
vol.6女性の専業主婦願望の難しさ、男性が共働きを求める理由
vol.7「LGBTは気持ち悪い」記事から見える【元】マジョリティが認めたくない現実
vol.8パートタイムと非正規雇用:女性の労働問題からすべての人の労働問題へ
vol.9海外で上映が一部禁止!? 男性の権利についての映画『The Red Pill』、日本上映の立役者にインタビュー
vol.10女性の労働、ガラスの天井と能力主義の嘘
vol.11フェミニストが男性の権利を直視するドキュメンタリー映画「The Red Pill」を見て

 

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